エリコから車で15kmほど南へ下ると死海の北西端に出る。周囲は茶一色の荒野である。車は死海の西岸に沿って走る(国道90号線)。ヨルダン王国との国境線は、ちょうど死海の中心部なので東岸はヨルダン王国の領土である。
車の左窓から見える死海は道路から遥かに離れた所に見え、すこぶる穏やかな海面で、深青色が美しい。対岸には標高1000mを越えるモアブの山々が靄(もや)の彼方に霞んで 聳(そび)え立っている。
死海北東端は標高が少しばかり低く、約800mくらいで、その辺りがモーセ最後の地、ネボ山やピスガの峰のあるあたりである。その時代はルベン族の相続地であった。死海は南北78km、東西18km、水面の標高は海面下 398mで、世界で最も低い場所である。しかし、ヨルダン川上流のガリラヤ湖から水利のために汲み上げる水量が過多のため、死海に流入する水の量が減少し、年々水位が下がり、現在は海面下400mを超えている。
私たちが走っている道路際まであった水が、現在、遥か彼方にまで退いてしまっている。かっては、この道路も水面下に沈んでいたそうである。車の右側は高さ100mは遥かに越える断崖絶壁が延々と続いている。この雨季には降雨によりワジ(水無川)が突如として上流からの鉄砲水で溢れ、車が押し流され、死者が出ることもあるのだ、とS師から聞かされる。