独りヴォランティア(6)

 「明日の夕食に来なさい」とへレナが朝食の時、私に声をかけてくれた。事情がよく分からなかったが「ケン、トダラバ(はい、ありがとう)」と答えた。又、庭の作業中に横を通りがかったハバ(エヴァ)が私に声をかけ「明日のパスハ(過越の祭り)の夕食は楽しいよ」と言った。この時私は明日の夕刻から過越祭が始まる事を知った。私はそのハバに作業服の胸ポケットに入れていた家族写真を見てもらった。

 昼食後同じ写真をアブラハムにも見せた。アブラハムが昨日の作業中に是非見せて欲しいと私に頼んでいたので朝からポケットに入れておいたのである。アブラハムはそれを手に取って実に嬉しそうな顔で長い時間見入ってから「ありがとう、ありがとう」と満面の笑みでそれ返してくれた。暖かい心の人々に包まれて、独り住まいのキブツ生活を始めていることに主の護りを強く感じつつ部屋に戻った。

 シャワーを浴び、作業衣上下を洗濯して干す。風は寒いが強く、天気がよいので直ぐに乾いた。数日前からスギ花粉が飛散しているらしく鼻炎の症状が出て眠い。夜8時過ぎには電灯を点けたままうつらうつらと眠ってしまう。

 3/26(土)安息日なので作業と朝食は休み、昼食後ドフ氏と部屋に戻る道を歩く。彼は道脇に無雑作に置かれてある 2 つの大きな石を指して言った「これはローマ時代の物だ。丸型の方は墓穴の入口を閉じる石、屋根型の方は棺の蓋だ」という。