エルサレム独り旅(25)

 ベタニヤ村を見ながら廻り歩いていると、頭上から声が聞こえて来るので上を見上げた。二人の若者が窓から顔を出して私に呼びかけていた。よく聞いてみると「ここに上がって来い、一緒に昼食を食べよう」と言っているようだ。一瞬戸惑ったが「ありがとう」と答えて石段を上って玄関口迄行くとドアが開かれたので中に入った。

 ワンルームの板敷きの部屋で、東側の窓際に小さな鍋が置かれていた。二人は私をその鍋の近くにくるようにと言い、三人でその鍋を囲むように床の上に腰を下ろした。鍋の横に一枚の皿があり、その皿に鍋からスープのようなものを注いで、それぞれが自分で丸いピタパンを裂いてそのスープに浸して食べるのだ。

 鍋の中にはトマトやたまねぎが入っていた。緊張のためか食欲がなくパン一枚で胸が一杯になった。彼らは私に「どこから来たのか、今どこに滞在しているのか」と尋ねて来たが、彼ら自身は「自分たちはヘブロンから来たパレスチナ(アラブ)人だ」と言った。

 食後紅茶と水を出してくれたが、金銭等の何も要求されなかった。私はお礼に日本から送ってもらった手作りクッキーひと箱を渡した。聖書時代からの「旅人をもてなす」伝統が生きている。