独りヴォランティア(33)

 ヘルモン山中腹で下車し歩き始めたのは午前 9時頃であった。キブツでは既に夏であったので半袖の上着でバスに乗ったのだが、ヘルモン山には寒風が吹き付けていた。あまりの寒さに震え上がっているとキブツ住民の男性の一人が自分が着ていた厚手のジャンパーを私に差し出し「これを着なさい」と言って下さったのでご厚意に甘えた。山頂付近を見上げると僅かだが残雪が見えた。

 マタイやマルコによる福音書では、主イエスはフィリポ・カイザリヤから三人の弟子達を連れて高い山に登り、そこで変貌しその後エルサレムに向かい過越祭に十字架に架けられた事が記録されている。この高い山がヘルモン山だとすれば(私はそう信じているが)主イエスの一行がこの山に登られたのは2月か3月頃になる。

 4月23日でもこの寒さなら、更に厳しい寒さの中、至る所に積雪が残っている山中に入って行かれた事になる。そのようにまでしてヤコブ、ヨハネとペテロの三弟子にだけは、どうしても見せなければならない事がこの山上で示されたのだと、その重大性を知らされた思いがした(マタイ 17:1-13、マルコ 9:2-13)。

 同じ季節にここに来てみて初めて知った福音書の記事の背景である。私たちツアーの一行は舗装された道路に別れを告げて山中に入ってゆく。先ずガードレールを乗り越え雑草を踏み分けながら谷間へとガイドに続いて下ってゆく。谷底まで下ると谷の向こう側の斜面を登り始める。ガイドはその所々で止まってその近くの植物や地質、地形についてヘブライ語で説明してくれるのだが、その内容は私には全く理解できなかった。