エルサレム独り旅(10)

 シロアムの池の水は薄茶緑色で濁っていた。深さは30cmほどであろうか。案内の若者が「トンネルの中を歩くか?最も深い所は胸のあたりまで水が来るので、荷物は持っていてやる」と言ったが私は「ノーサンキュー」と言って断った。

 トンネルの長さは 533mもあり、ギホンの泉まで通じている。中は真っ暗で懐中電灯がないと危険であるとパンフレットには書かれている。このトンネルは紀元前700年頃、アッシリア帝国の攻撃に備えてユダの王ヒゼキアがエルサレム城内の水を確保するために掘らせたもので、1880年にこのトンネルの中で工事に携わった職人が書き残した落書き(シロアム碑文)が発見され、その史実が証明された(列王下20:20、歴代下32:30)。

 重要な遺蹟なので本心は歩いてみたかったが、この夕刻にこの暗い中を衣服や靴もずぶぬれになること、この初対面のアラブ人の若者が信用できるかということもあって断ったのだ。旅行の体験としては最高のものとなったであろうが、あまりにもリスクが大きすぎた。それで若者と別れてキドロンの谷に戻った。