キブツ到着(9)

 ユダヤ人なのだから、当然自分たちのルーツである旧約聖書、ヤコブの第三男レビについて知っていると思っていた私の早とちりであった。日本人であっても古事記を読んだ人は少ないと思う。

 古事記は約1300年前のものだが旧約聖書の場合は3000年も前のものである。しかも多くのユダヤ人がそれらを歴史としてではなく単なる古い神話と考え、あまり関心を持っていないのは、殆どの日本人の古事記や日本書記に対する思いと同じなのだ。

 過越しの祭りなど聖書が命じている三大祭りや、安息日などに関しては、国の祝日、ユダヤ人の習慣として守り祝ってはいるが、キブツ在住のユダヤ人の殆どは旧約聖書を持っていないし読んだこともなく、よく知らない、ということを、そこに住んで彼らと接してみて、はじめて知ったのである。

 入所手続きを終えた私たちは宿泊施設に向かった。ヴォランティアストア(事務所)から東の方へ細い道を歩いて行く。数分ほど行くとヴォランティアストアと同じような平屋の横長の建物がある。築50年は経ている古い家だが、二軒長屋の右側が女性三人の宿舎、私とS師の宿舎は更にその東の、日本では見たことのない珍しい建物であった。